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【インタビュー】栗林隆:出部屋

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【インタビュー】栗林隆:出部屋

現在、アートフロントギャラリーにて開催中の栗林隆 個展「出部屋」。
作家が自分にとっての生まれる場所として表現した本展は、生まれ、育ち、死へ向かう、日々変化し続けている展示です。

9月6日に行ったオープニングレセプションにて、本展に込めた想い、いま制作中の瀬戸内国際芸術祭に向けた想いを語って頂きました。

「出部屋」展示風景(2019/09/06撮影)


僕もようやくアート活動をして28年という年月が経ちました。50歳を超えたところか
ら、今までは作品を作ることに一生懸命だったのですが、もう一度自分の作品を顧み
ないといけないようなときに来たのかなと思い始めました。

そんなところに、ちょうど瀬戸内の芸術祭への参加が決まりました。

自分は秋開催で9月28日から作品を発表することになっています。その作品を28日までに作らないければいけないのに、なぜ代官山でこの個展をやっているのか、微妙なんですけれども、それも流れといいますか必然的な問題があるなと思い、作品をつくらせてもらいました。

「Tree of ibuki No.2」2019、 425x600mm、手漉き和紙にプリント、ドローイング、植物、ガラス (2019/09/10撮影)


この作品は、3日間、ほぼほぼこの代官山の場所でつくりました。材料はここに来る前に、福島県から瀬戸内芸術祭で自分が作品を展示する伊吹島までの旅の間に集め、以前からお世話になっている徳島の阿波和紙会館でその素材を自分の手で漉き、和紙をつくりました。その和紙にプリントしたものを、ギャラリーへ持ち込んでドローイングをし、種を捲き、水を与え、今に至っています。このドローイングは育ち続けるドローイングです。今日に合わせて植えましたが、ものすごく芽が生えているとこもありますし、まだ生えかかっているものもあります。いっぱい生えているやつは一週間前ぐらいに植えたものです。ちょろって出ているやつは昨日植えました。そういった感じで、実はこの2時間ぐらいの間も種が動きまくったりしているような、ちょっと不思議な作品です。

「Tree of ibuki No.2」2019、 425x600mm、手漉き和紙にプリント、ドローイング、植物、ガラス (2019/09/20撮影)


展覧会タイトルの「出部屋」は、香川県の伊吹島に出部屋という場所があり、そこからつけました。そこは島の女性の方がお産前からそこにはいられてこども産み、1カ月ほど島の女の人たちで育てるという、そういう産場というか、出産する場所でした。その出部屋という場所の跡地に僕が今回の芸術祭で作品をつくることになっています。

現在、非常にいろんな問題がある中で、もう一度その「生まれる」っていうこととか「死ぬ」っていうことを改めて見直そうと考えている時に、僕が出部屋で作品を作ると、そのことがどういうことなのかということで、今回の個展、「出部屋」ってタイトルなんですが、このギャラリーでの個展では、自分の中の「出部屋」を作りました。

「face 3 」 1993/2019、595x840mm、手漉き和紙にプリント、ドローイング


実は中央の部屋の4点の写真作品は、25歳のころの作品です。今から25年か26年前の作品で、ドイツへ渡ったころの作品です。ドイツに行ったときに僕は、日本で勉強したアートというものを全部チャラにしてもう一回自分を考え直そうと思っていました。1993年頃にドイツに行ったのですがそのときに一番最初に「自分は何なんだ」と問い、自分のデスマスクを作ってそのデスマスクに土を詰めて自分の眼と鼻と口に種を植えるという作品をつくったんですね。なぜそういうことをやったのか、その時はわからない、でもなぜかそういう作品をずっとつくっていました。そして今回展示している作品が、そのときの自分の作品を自分で撮って現像をして、焼き増したプリント作品です。今回、これが25年経った今の自分にすごく重なるというか、原点なのだということが思いきりわかりました。今回はそんな自分の中で作家としての自分を見つめ直そうという展示です。

「出部屋」展示風景(中央展示室)


福島の問題というのが、もちろん僕の中にはあります。この8年、福島を訪れていて原発問題を追ってきました。新しい、これから生まれてくるこどもたちや自分たちが次の10年とか、次の25年、50年後にどういうふうに考えるんだということも含めて、今さらということではなくて、まだまだ福島の問題を考えていかなきゃいけないと思っています。

今回の作品はその伊吹島の出部屋の土と福島の土を混ぜてつくっています。

中央の部屋は原点となる部屋です。
床に置いてある「Seed」という和紙作品は、福島の土と楮を混ぜて自分で漉いて、その漉いた紙に種を入れて、乾燥させたものです。
この、自分で漉いた和紙は、僕にとっては一つの畑みたいなもので、それにプリントをしたりとかドローイングをしたりとか、何ていうか、僕からすると庭師の作業みたいなことをやっています。

「道法自然」2019 (部分)


「道法自然」の横たわっているのは一応自分の身体なんですけれども、福島の土から伊吹島の出部屋の植物が生えています。それを囲ってビニールハウスで育てているという。いろいろな意味が含まれていて、言い出したらきりがないんですけれども、期間中育ててもらう作品です。

その周りに結界のように書かれている文字っていうのが、「無為自然」、いわゆる皆さんご存知の老子の言葉なんですけれどもそういう「生きる」と「死ぬ」とか、「ある」「ない」ということの「あいだ」を説いている言葉なんですね。僕にとっては老子というのは非常に気になる言葉でして、今回、その文章もそうですけれども、ほとんど老子の言葉を使っています。

「invisible world」2019、手漉き和紙にプリント、ドローイング、植物、ガラス、1015x1510mm(2019/09/10撮影)


「invisible world」は2011年に、富岡町というところに、もう何万というフレコンバッグという除染した土を入れたバックが置かれている写真を使った作品です。ものすごい量なんですけれども、今ではそこには何にもありません。そして、その土がどこにいったか、国民の僕らに何も知らされていない。でその土は全国にばらまかれていると言われています。

とにかくそういう情報すら、僕ら知りません。それで僕は仲間と一緒にその福島の現場をとにかく見ないと、情報だけでなくて、ちゃんと知識としてその場所に行ってみて、感じて、それをちゃんと表現していこうということで、毎年通ったときの写真の中から、今回8点ぐらいは、その仲間の志津野くんの写真も使わせてもらっています。

制作風景(2019/09/04撮影)


カイワレ大根を使っているのは、カイワレ大根ていうのは人工的な植物で、非常に人間がつくった人工的な象徴みたいな植物なんですけれども、その種を使ってその期間どんどん育てていく。これもまた人が一生懸命手を入れて水をかけてあげれば育っていくんですけれども、たぶん展覧会の最後は死ぬことになると思います。ただそれも、生きた証というか、そういうものが見えてくると思うので、終わったときにどういうことになるか僕も楽しみにしていますし、今日来た方もこの状態が今日しかみえてないので、この方たち、皆さんしか見てないので、最終的にどういう形になるか一つの興味をもってやっていただければと思います。


「New chapter 2011」(部分)2019、1010x1510mm、手漉き和紙にプリント、ドローイング、植物、ガラス(2019/09/10撮影)

今回の展覧会は一つの区切りというか、いろんな意味で自分がアーティストとして生きてきて、自分が作っている作品っていったい何なのか、もう一回自分と老子なんかの言葉を読み解きながら表現をしてみようと思って作った作品です。

「Tree of ibuki No.1」2019、340x438mm、紙に鉛筆


明日からまた瀬戸内の方にいきます。ここも出部屋なんですけれども、本当の出部屋にいって「生命の樹」生命の樹というのは有名な話があると思うんですけれども、僕か
らすると、樹自体というより根っこを今回作ります。大体4m50から5mぐらいの高さの
根っこをつくりますので興味のある方は9月28日以降、ぜひ見に来ていただければと思います。

一応、パーマネントということで計画しています。期間中はもちろんですけれども、島でどういう風に育っていくか、ということも含め、芸術祭の方も見ていただければと思います。



栗林隆:出部屋
2019年9月6日(金) - 29日(日) 
@アートフロントギャラリー、東京

瀬戸内国際芸術祭2019
2019年9月28日(土)—11月4日(月)
@伊吹島、香川



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