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椛田ちひろ新作解説
見知らぬ惑星 コズチ_2017_900×900_インクジェット紙にボールペン、アクリルマウント

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椛田ちひろ新作解説

2017年、椛田ちひろの展覧会で発表された作品についてご紹介します。

黒色ボールペンでインクジェット紙などの上に不定形なかたちを描くことで知られる椛田。ボールペンの動きは繊細かつ力強く、独特の質感が海外でも人気を博し、これまでシンガポール、中国、スイスなど様々な場で展覧会が行われてきました。最近の個展では石を置いて光をあて、多方向にできる影をボールペンでトレースし、石が辿ってきたみえない時間を視覚化。ボールペンで巨大な絵を描くという技法的な非日常性だけでなく、制作に対する思考の上でも発展を図ってきました。
表現方法としてはボールペンのほか、指と手で描く油彩画、樹脂を鏡の上に垂らすドローイングなども手掛け、表現の幅を広げるだけでなく、自身のボキャブラリーを駆使して空間をつくっていく可能性を模索し続けています。

作家は通念的なテーマである”知りえないもの触れたい”という未知に対する興味を文字通り手探りで表現してきました。ある時は目をつぶって感覚を頼りにボールペンを走らせ、あるときはより体感できるようにと筆を使うことをやめ、自らの手を筆代わりに真っ白なキャンバスに絵の具を飛び散らせました。
しかし、これまでその表現は、その行為で追いかけた軌跡や、行為の果てに埋め尽くされたキャンバス(または紙)が結果として残るのみで結局その行為の結果の向こう側にあるものには届きませんでした。




今回椛田は、彼女の求めるものが未だ見えぬ自らとその世界を隔てる壁の向こうにあると感じ、その世界を空白として表現しました。見知らぬ惑星というタイトルもそういう作家の想いからつけられました。
また、自ら表現しえていない空間に意味と余韻を持たせるように、一点一点のタイトルにもSF小説や神話の中にしか登場しない仮想の惑星の名を当てはめ、その星の外形だけを描き中身はわざと描きませんでした。
いつもの力強い線の動きの中に円形にぽっかりと空いた余白は不思議とその空間に厚みと奥行きを魅せ、これまでの椛田の作品と異なる緊張感を持っています。
その空白は見るものによって違う惑星になることを作家は望んでいます。

椛田は今回これら惑星の平面作品と呼応する空間を現実世界に構築しようと試みていました。
残念ながらその試みは今回の展示では実現されませんでしたが、その試作となる新たな表現の断片を本展覧会にて発表しています。
大きな平面作品とは別のもうひとつの部屋に置かれた丸い黒い玉。
この玉は内側にその形を支える支柱を持たない構造で、外からはわかりませんが、内封された閉じた空間を持つ構造体です。要するに空っぽの空間なのですが、その思想は平面で表現しようとした、たどり着けない向こう側にあたるものです。
作家の文字通り手によって、絵の具を使いその形を探るように全面が塗りつぶされた黒い玉は独特の存在感でギャラリーに鎮座しています。
こちらも描かれなかった惑星の内部同様、一目には知ることのできないものを内封しており
観る人の想像力が試されます。
どちらの作品も是非ギャラリーに足を運び、ご自分の目で肌で感じていただければと思います。

こちらで紹介している作品は展示終了後もギャラリーにて取り扱って降りますので興味のある方は、スタッフまでお声掛けください。

■見知らぬ惑星 オルフェウス

オルフェウスとは太陽系の仮説上の原始惑星であり、ジャイアント・インパクト説において、原始地球と衝突し現在の地球と月が誕生したといわれています。月の女神セレネの母ティアに由来しティアとも呼ばれています。

この絵はこれらの物語を前提に見てみると
右の二つの半円状の余白がつながっている様は、物語の中の惑星の衝突を暗示するようにもみえ、45億年前の惑星誕生の瞬間を表現しているようにも見えてきます。

■見知らぬ惑星 ニビル

1982年にアメリカのロバート博士が摂動現象を元に研究を初め、冥王星の外側に存在する10番目の惑星として世界中で惑星Xとしても注目されました。その星の存在ははるか昔メソポタミア文明のころにシュメール人においてすでに知られていたという説もありオカルト好きの間ではもっとも有名な未確認の惑星です。
この惑星は地球を含む太陽系の他の惑星とは違う極度の楕円形の軌道を描くとされ、2009年、2012年ごろには地球に衝突する可能性があるとまで噂されました。
結局はそのようなことはなく現状に至っていますが、椛田のこの絵は、怪しい軌道を描く未知の星を暗示するような力強い線とタッチが魅力になっています。

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