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ムニール・ファトゥミ、生と死の対話を開くメッセージ
"The Blind Man" edition4/5, 2017,700 x 500,pigment print on fine art

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ムニール・ファトゥミ、生と死の対話を開くメッセージ

ギャラリー

現在開催中のArt Front Selection に出品しているファトゥミが、コロナ禍のフランスから作品のメッセージを送ってくれましたので紹介します。

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Art Front Selection 2021 spring 展示風景

モロッコに生まれ(1970)、フランスで制作を続けているムニール・ファトゥミ。ヴェネツィア・ビエンナーレ、シャルジャビエンナーレを初め、日本では瀬戸内国際芸術祭(2016/19)、妻有トリエンナーレ(2018)と数々の芸術祭に招聘され、ルーブル・アブダビにコレクションを入れるなど欧米・中東・アジアなど世界各地で作品を発表してきました。立体・平面・写真・ビデオとそれらを融合したインスタレーションを自在に生み出し、歴史・政情・宗教をスマートに時にユーモアを交えて作品化する彼の作品は、幅広いファンを持っています。

The Blinding Light (2013-2016) France, 11 min 57, HD, B&W, stereo. Courtesy of the artist

今回の展示は2017年にアートフロントギャラリーで個展を開いて以来になりますが、フランスで再びロックダウンが行われているなど現在の状況下でどのような作品が人々に訴えるかと相談のもと、古典美術と現在の社会状況を重ね合わせて制作したビデオ「The Blinding Light」を日本で初めて展示します。生と死、人種や文化の移植、疫病の繰り返しなどをテーマとしていますが、まさに今、作品を見た人がどのように受け取るか、生と死に向き合う対話を作家が始めようとしています。

この作品に対する作家のメッセージをお読みください。



私がThe Blinding Light (2013-2016, video)のプロジェクトを始めたのは2013年で、フラ・アンジェリコが奇跡を描いた「助祭・ユスティニアヌスの癒し」にヒントを得たものだ。この情景では、アラブ人の兄弟が聖ペテロの墓に埋められたばかりのエチオピア人男性の足を、ユスティニアヌスのそれに移植しようとしている。白人の体と黒人の肢体とを繋ぎ合わせ、生きている者と死者とを融合することで人種やハイブリッド、アイデンティティといった問題を問う作品だ。

The Blinding Light の最初のフォトモンタージュ(2013)のシリーズでは、医療機器一式や衛星用具を備えた手術室を様々な角度から撮り、その写真群を「奇跡の絵画」に重ね合わせている。同タイトルのビデオにおいて医師は二人の聖人の傍らに立ち、彼らは全体として一つの作業グループを成している。こうして亡霊と生きた人々とがもう一つの現実、すなわち一時的な空想の世界に共存し得るが、それは宗教上のテキストと同じぐらい奇跡的な現象となっている。The Blinding Light ビデオ2014年版では、現代の手術風景とフラ・アンジェリコの作品がさらなる重層的な展開を見せており、ルネッサンス時代と超現代との連想とが単なる交配以上の効果を生み出している。異なる時代と空間を重ねるという一時的な省略方法は、これまでは聖なる奇跡と思われていたテクノロジーや麻酔の領域にまでその力を及ぼし、画面に描かれた人物は亡霊として提示される。重層的なレイヤーを眼にした観者は、否応なくルネッサンス期と現代を心理的に往来するだろう。宗教上の奇跡は現代においても実現可能であるというコンセプトは、まさにこの異なる時代を重ね合わせることから生まれるのだ。

私が俎上に載せたテーマは、文化の移植、人種・ハイブリッド化・アイデンティティの概念、科学と宗教が出会った結果としての奇跡などであるが、これらの問題はパンデミックが世界を席捲する今日、ますます重要性を増している。パンデミックは人種や社会的階級の区別に関わらず、ウイルスによって深く影響されているからだ。
「The Blinding Light」の作品において医師たちは二人の聖人と肩をこすり合わせるようにして一つのワーキンググループを構成しているが、二つの相入れない信念の領域を横断し、以前に増して一緒に動かす状況になってきた。一方には科学・秩序・理論の信念があり、もう一方には宗教と、忠誠心や奇跡、聖性への信頼が厳然として存在するが、両者は近づきつつあると思う。

2021年4月 ムニール・ファトゥミ



"calligraphy of fire" 2017 ステンレススチール、クランプ


今回の展示では、アラビア文字の切り抜きで構成された「Calligraphy of Fire #4」も出品されています。ファトゥミは幼少期から家で大切にしていたイスラム教のコーランをもとにした作品を多く制作していますが、アラビア文字を切り出したいわば文字のエッセンスをクランプでとめ、新たな作品としました。この作品にも美と危険なもの、聖と俗など対立概念が潜んでおり、ものごとを常に表裏両面から見ようとするファトゥミらしい作品といえるかと思います。

また、今回は展示できなかったArchaeology という作品も、生と死を深く考えさせる作品となっています。テロなど暴力的な行為による死、あるいは疫病による死、原因は何であれ、生きるということは死に直面せざるを得ない。作品を通して、アーティストのメッセージを感じていただければ幸いです。

"Archaelogy"2016, 箒、黒い旗、どくろ、300 x 250 x 40 cm、Courtesy of the artist


また、ファトゥミの日本での活動の注目すべき作品の一つとしては、瀬戸内国際芸術祭で、旧粟島小学校という廃校を舞台にしたインスタレーション「過ぎ去った子供達の歌」が挙げられます。

2019年の再設置バージョンでは、屋上に掲げられた詩のようなテキストと、障害物の作品で知られるファトゥミならではの「ハードルのパッサージュ」が出現しました。

"過ぎ去った子供達の歌" 2016



Art Front Selection 2021 spring
2021年4月9日(金)-5月16日(日)



































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