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【レビュー】中谷ミチコ : 樹のみる夢

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【レビュー】中谷ミチコ : 樹のみる夢

ギャラリー

Art Front Selection 2020 autumnの出展作品より、キュレーターの中野仁詞氏に中谷ミチコ《Boat》についてレビューを書いて頂きました。

神奈川県民ホールギャラリーやKAAT 神奈川芸術劇場で数々の展覧会を企画され、2015年の第56回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館「塩田千春《掌の鍵》- The Key in the Hand - 」、横浜トリエンナーレ2017「島と星座とガラパゴス」でキュレーションを務められるなど、現代の日本美術において重要な役割を担うキュレーターの中野氏の目を通して、本作の魅力をご紹介いたします。

Art Front Selection 2020 autumn展示風景(10月10日、11日は一部展示替え)


中谷ミチコ 樹のみる夢
中野仁詞/キュレーター

 中谷さんの作品は、石膏と樹脂による深みのある彫刻作品が知られている。その多くは、粘土で原型としての塑像を作り、石膏で型取りして粘土を取り除いたところに樹脂を流し込むことによって、彫刻内に複雑な距離感をもたらす。筆者は、これまで幾度となくこの手法をとる作品を拝見してきた。

《Boat》2015 / 硬質石膏 / 42 x 110 x 32 cm


しかし、今回取り上げる《Boat》(2015年)は、上記のような形態ではない。船の形をとった造形の中に様々なアイテムが登場する彫刻となっている。これらのアイテムが絡み合い関係する様子は、ロンドンのナショナルギャラリーに所蔵されているブロンズィーノの《愛の寓意》を思い起こさせるような、謎解きを孕んだ図像のように見えた。

構成を見てみよう。石膏によるレリーフが船の形をとった本作品の、その後方には、前方に大きく枝を伸ばし、外敵から船全体を守る、優しい母の姿のようにも見える大木がある。目を凝らしよく見てみると実が一つ見て取れ、それが洋梨の木であることがわかる。そしてその木の枝と絡み合うように、35羽の鳥が方々に飛んでいる。鳥はその行動範囲から、見知らぬ世界とわれわれが現在見ている世界を繋いでくれる。その下で、50人の様々な表情や仕草をとる女性。その女性陣の中には2匹の魚が登場する。1匹は、彼女たちによって担ぎ上げられ崇高なものとして祀られているように見えるが、もう1匹はすでに息の途絶えた魚だ。呼吸、鼓動なく死の世界に佇むこの1匹の魚は、十字架から降ろされたイエス・キリストのように横たり、その側で女性が悲しみの眼差しを向けている。この光景はピエタの像をわれわれに思い起こさせる。そのすぐ横では、手漕ぎの舟が次々に海に出立してゆく。

2019年に開催された三重県立美術館の個展「その小さな宇宙に立つ人」。この展覧会の作家のテキストで中谷さんは、作品について「わたしとあなたの境界線を行き来する事になりました」と述べている。《Boat》という船を模った造形の中で繰り広げられる、木、鳥、魚、女性のドラマ。作品前方で旅立ちゆく手漕ぎの舟を見送りながら、無言の会話を重ねる女性たち、そして、天空から地上の出来事を俯瞰する鳥、女性たちに掲げられ、あるいは横たわる魚、その全体を包み込む梨の木。船の形をもった彫刻作品の、その先端に集まった11艘の手漕ぎ舟は、中谷さんが切り開こうとした「あなた」への出会いの可能性を探るものだ。魚の復活の希望を託し、空に浮かぶ鳥に祝福されつつ、梨の木の生えた大地、母体から手漕ぎ舟は旅立つだろう。それらのドラマが船の形として一つにまとまったその様は、中谷さんとこれまで出会った「あなた」、これから出会うだろう「あなた」と、作品を通して交感しようという作家の構えなのだ。

中谷さんが創造したこの船は、「あなた」を求めて旅を続ける。「わたし」と「あなた」の境界線を越えて、これまでの、そしてこれからの記憶と記憶を繋ぐ存在として。

Photo by Hayato Wakabayashi


参考写真

個展「その小さな宇宙に立つ人」三重県立美術館、2019 展示風景

個展「その小さな宇宙に立つ人」三重県立美術館、2019
出展作品《犬の唄》

個展「その小さな宇宙に立つ人」三重県立美術館、2019
出展作品《川の向こう、舟を呼ぶ声》

写真提供:三重県立美術館



《Boat》出展展覧会:
Art Front Selection 2020 autumn @アートフロントギャラリー
2020年9月11日(金) – 10月11日(日)

































































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