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田中信太郎 : STEPS AHEAD @ アーティゾン美術館
「STEPS AHEAD: Recent Acquisitions 新収蔵作品展示」倉俣史朗・田中信太郎セクション 展示風景 photo by Keizo Kioku *

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田中信太郎 : STEPS AHEAD @ アーティゾン美術館

作家情報

現在、東京・京橋のアーティゾン美術館で開催中の「STEPS AHEAD: Recent Acquisitions 新収蔵作品展示」(2月13日~9月5日)はキュビスム、抽象表現主義、マティスのドローイングなど未公開の新収蔵作品92点を中心に201点、さらに芸術家の肖像写真コレクションから87点を公開するという充実した展観に注目が集まっています。

そして、その新収蔵作品の中には、昨年アートフロントギャラリーでも展覧会を開催した田中信太郎の作品群も含まれています。実は、田中とアーティゾン美術館を運営する石橋財団とはインテリアデザイナー、倉俣史朗を通じて以前から深い関りがあるのです。

本展の担当者であるアーティゾン美術館学芸課長の新畑泰秀さんに今回新たに収蔵された田中の作品について、また「同時代の美術」に対してどのようなアプローチで収集・企画を考えているかなど、展覧会の見どころを語っていただきました。


アーティゾン美術館、新収蔵品展について
新畑学芸課長に聞く


-----今回は開館記念展では展示しきれなかった新収蔵品中心のお披露目ですね。

アーティゾン美術館は、2020年1月に開館した新しい美術館です。その前身はブリヂストン美術館ですが、2015年に休館したのち、アーティゾン美術館が開館するまでにはおおよそ5年の時間がありました。石橋財団はそれまでもずっと収集を継続して行っていましたが、休館中も作品の収集は続けていました。それら作品の一部は、開館以来皆様にご覧いただいてきたわけですが、まだまだご紹介していないものがありました。そこで開館から1年経ったこの時期に、新しい収集品を軸に皆さまに新しいコレクションというのを見ていただきたいと「STEPS AHEAD」展を企画したわけです。

6階展示室入り口ロビー常設作品(田中信太郎《ソノトキ音楽ガキコエハジメタ》・倉俣史朗《ガラスのベンチ》)1986年旧ブリヂストン本社ビルの改修工事のときに特注されたもの*


-----田中信太郎と倉俣史朗、そしてアーティゾン美術館の関係について教えてください。

今回の展覧会のセクション4の「倉俣史朗と田中信太郎」には、倉俣さんのソファセットが展示されていますけれども、これもまた旧ブリヂストン本社ビルのホールで実際に使用されていたものです。

倉俣さんは石橋財団の現理事長でアーティゾン美術館館長の石橋寬に頼まれてそこの空間デザイン全般を請け負い、様々な造形作家とお付き合いがおありのようでしたが、その中でも信頼のおける田中信太郎さんにお願いされたとのことです。

田中さんは倉俣事務所によくいらっしゃったようで、倉俣さんの傍らにいて、(倉俣さんが)田中さんに声をかけるとそれに応えるということがあったようです。そのような間柄にあって、ブリヂストン本社ビルの改修の時に1階エレベータホールに置く立体作品を知友である田中さんに任せたのです。そうして出来上がったのが《ソノトキ音楽ガキコエハジメタ》でした。

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倉俣史朗(左)と田中信太郎 山中湖別荘にて 1990 (「STEPS AHEAD」展の展示風景 photo by Keizo Kioku *)

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「STEPS AHEAD: Recent Acquisitions 新収蔵作品展示」倉俣史朗・田中信太郎セクション 展示風景 photo by Keizo Kioku *
作品制作のための鉛筆描きのドローイング、ブループリントも展示中

旧ブリヂストン本社ビルの1階ロビー(2015年6月11日撮影)*

-----《ソノトキ音楽ガキコエハジメタ》はどのように新美術館に移設されたのでしょうか?

2019年7月に美術館を含めてミュージアムタワー京橋が竣工しました。美術館の開館は2020年1月になりますけれども、その竣工に合わせて田中さんの作品は一時的に預けられていた美術品倉庫から輸送して美術館の6階の展示室の前のロビーに設置するということになったのです。

この移設については、田中さんに全面的にご協力いただきました。残念ながら旧ブリヂストン本社ビルに設置していた状態から、壁の部分は移設することは出来なかったのですが、そのかわりに新たな石材を研究して中国から部材を取り寄せました。これは光を透過する石材で、現在裏面からLEDで照らし出しています。

残念ながら田中さんは開館前の2019年にご逝去されましたが、わたしたちとしてはぜひぜひ移設が完了した状態をご覧いただきたかったところです。

今回ご縁あって、田中さんの平面作品をまとめて収集する機会を得ました。そのようなこともあって、今回の「STEPS AHEAD」展の中で、倉俣さんの作品と田中さんの作品が一緒に展示できる機会を得た、ということなのです。

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石材の選定をする田中信太郎(2017年12月8日撮影)*

-----田中さんのアトリエに遺されていた作品をまとめて展示したのは、2020年夏から秋にかけて市原湖畔美術館での個展「風景は垂直にやってくる」とアートフロントギャラリーでの「田中信太郎 作品展」が初めてでした。

平面作品については事前にお知らせいただいていて大変期待を持って展覧会を拝見しました。田中信太郎の作品は、断片的には存じ上げていました。ただ、これほどまでに大きく完成度の高い平面作品を制作されていたのは存じ上げませんでした。それら作品は、病気を克服して復帰した1980年以降の作品と聞いていますので、あれほどまでに緻密な作品をやられていたのは恥ずかしながら存じ上げなかったので正直、ギャラリーで拝見したときには大変驚きました。

市原湖畔美術館 田中信太郎展「風景は垂直にやってくる」展示風景 2020 photo by Yuichiro Tamura

アートフロントギャラリー「田中信太郎 作品展」展示風景 2020 photo by Hiroshi Noguchi

田中先生の作品に関心をもったのはもちろん、旧ブリヂストン本社ビルで毎日のように作品を見ていたということがあります。一方で、石橋財団は現在、収集領域として抽象表現に力を入れています。田中信太郎の展覧会をアートフロントギャラリーと市原湖畔美術館で拝見して、こんなに素晴らしい抽象絵画を制作されていたことを知り、大変感銘を受けました。その後、美術館内でこの展覧会の情報を共有し、是非作品を検討したい、ということになった次第です。

ST200825-01_田中信太郎_韓(HAN)-秋に_1990_2180x2910x45mm_キャンバスにアクリル_20年9月野口撮影_ディテール.jpg

《韓(HAN)-秋に》(部分)1990 石橋財団アーティゾン美術館蔵 photo by Hiroshi Noguchi

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田中信太郎制作風景:絵具をドリッピングしているが、かなり複雑な技法を多用していることが窺われる。

-----作品タイトルについている、「韓(HAN)」というシリーズ名は、ご遺族によればその頃親交のあった女性の韓国人アーティストのお名前だったのではないか、また田中さんが1988年にソウルオリンピック関連でソウルに立体作品を設置したので韓国やその文化への思い入れがあったのではないかと言われていますが、まだはっきりしていませんね。

確かに「韓」という字は、韓国を想起させます。是非詳しく調べてみたいところです。


-----今回の収集をきっかけに、今後も、より新しい時代の作品に目が向いていきそうですか?

石橋財団は、抽象表現の展開を辿ることの出来る作品の収集を続けており、それはもちろん現代へと続くものです。このたび収集した田中信太郎の作品は1980年代から2000年代の作品ですが、これもそれに当てはまるものです。田中信太郎の抽象絵画は、今後広く知られていくことになるでしょう。石橋財団にとっては大変重要な収集となりました。

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「STEPS AHEAD: Recent Acquisitions 新収蔵作品展示」倉俣史朗・田中信太郎セクション 展示風景 photo by Keizo Kioku *

左から倉俣史朗、エットーレ・ソットサス、田中信太郎。今後の調査で人間関係や影響関係を含めた解明が期待される。


同時代の美術を収集し、企画していく


-----「同時代の美術」はどのようにとらえていらっしゃいますか。

半世紀前に初代石橋正二郎がこの地に美術館を設けた時、印象派や青木繁を中心とする日本近代美術が中心でした。今でこそ青木も印象派も大変有名ですが、当時の日本ではそれらの作品を見ることの出来る場所は、ほぼ無かった、と言えるのではないでしょうか。当時としては、かなり革新的な展示であったはずです。その後も実は革新的な展示をところどころ続ける試みを積み重ねてまいりました。つまりわたしたちは、同時代を常に意識してきたのです。

しだいに年月を重ねるうちに、われわれの美術館はどちらかというと保守的な美術館と見られるようになってきましたけれどもこの姿勢は大事にしてまいりました。アーティゾン美術館が開館した時、半世紀前とは社会や環境が加速度的に変貌していく中でより明確にその意識があることを明示するために、現代にも目を配ったしかるべきコレクション形成をしなくてはならない、と思っています。

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インタビューに答える新畑学芸課長

「ジャム・セッション 石橋財団コレクション x 鴻池朋子 鴻池朋子 ちゅうがえり」展示風景 photo by Nacasa & Partners *

-----昨年の企画展、「ジャム・セッション 鴻池朋子 ちゅうがえり」(2020年度毎日芸術賞を受賞)を見ますと、さらに現代美術にも関心が広がっているのかと思いますがいかがでしょうか?

鴻池展はキュレーションをアーティゾン美術館の賀川恭子学芸員が担当しました。新しい美術館になって新しい時代を意識する企画として、笠原美智子が中心となって石橋財団コレクションと現代美術家の共演としての展覧会シリーズが発案されています。

-----既存と新規を掛け合わせる「ジャム・セッション」展ですね。

担当学芸員は以前より鴻池さんの作品には関心を持っていたみたいで、石橋財団のコレクションと如何に展示室で現代の作家の作品が並べられるかという試みが行われたわけです。会場ではギュスターヴ・クールベの《雪の中を駆ける鹿》という作品が鴻池さんの作品と一緒に展示されましたが、とても面白い展示になった、と思います。

美術ってどうしても我々は時代で区切ったり、場所で区切って見てしまいがちですけれども芸術家が時代や場所を超越してインスピレーションを受けているとすると、こういった企画をやることによって相互の作品にいろいろな見え方ができます。私たちのコレクションを活かすとともに新しい時代の美術の新しい見方をご提供できるものと考えています。石橋財団のコレクションと現代作家とのコラボレーションというのはこれからも続けていきます。今年度の後半になりますけれども森村泰昌さんと一緒にやることが既に決まっていますので是非ご覧いただきたく思います。

鴻池朋子さん、森村泰昌さんは日本を代表する芸術家で若い世代にも多大な影響力のある人たちです。幅広い世代の方々にご覧頂ければ、と思っています。今後様々な現代の作家に登場していただくことになります。私たち石橋財団アーティゾン美術館は、基本的なポリシーを遵守しつつ、新しい時代の芸術家を取り上げ新しい時代の作品を扱うということがどういうことなのかを見極めながら、展覧会を立案・実施していきたいと考えています。

-----最後に展覧会のメッセージをお願いできますか。

アーティゾン美術館がオープンしたときから、展覧会の入り口には田中信太郎の《ソノトキ音楽ガキコエハジメタ》と倉俣史朗の《ガラスのベンチ》は展示室入口前のロビーに設置されていました。お二人の関係を含めて、これら作品がそこにあることをあらためてお示しする機会となりました。「STEPS AHEAD」展のひとつのセクションではありますけれども皆様にお示し出来たのは大変嬉しいことだと思っています。

-----貴重なお話をありがとうございました。
(インタビュー:アートフロントギャラリー、撮影:加藤健、*印 図版提供:アーティゾン美術館)



<田中信太郎作品 出展スケジュール>

「STEPS AHEAD: Recent Acquisitions 新収蔵作品展示」
開催中ー 2021年9月5日[日]

アートフェア東京
2021年3月19日(金)-21日(日)
ブース【G098】アートフロントギャラリー
田中信太郎の作品を出品しました。

田中信太郎《韓(HAN)-黒髪》1990, キャンバスにアクリル、1940 x 1940 x 45mm




















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