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青山夢 個展 :見えない怪獣

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青山夢 個展 :見えない怪獣

2024 年4月12日(金)- 2024年5月19日(日)

この度、アートフロントギャラリーでは、青山夢の初個展を開催します。
ぜひご高覧賜りますよう、また併せてご取材・ご掲載等、宜しくお願い申し上げます。
日程 2024 年4月12日(金)- 2024年5月19日(日)
営業時間 水~金 12:00 - 19:00 / 土日:11:00 - 17:00
休廊日 月曜日、火曜日、およびゴールデンウイーク(5月3日~5月7日)
レセプション 2024 年4月13日(土)16:00-18:00
クロストーク ※事前予約制 4月13日(土)14:00-15:30頃 / 登壇者:石倉敏明(人類学者・神話学者)x 青山夢  ※下記URLよりご予約ください
https://forms.gle/g16WtWmdKgdapngc7

青山夢 「獣を縫う」2023 キャンバス・油彩・アクリル・糸 / 1620x1303mm

これまで、山形県村山地方の供養習俗であるムカサリ絵馬の取材を通し、人々が暮らす環境の中で、人の死を思う人間の普遍的な形式をモチーフにして作品をつくってきた青山夢は、人知を超える大きな災いが起きても、境界なく入り混じりつながる獣に興味を持ち、様々な獣の皮膚や毛を土台に制作。治癒と破壊を繰り返す、人間と自然の共生を神話学的思考で捉え描いてきた。太古の昔から神話は、その土地で起こった出来事を元に物語られる。
今回の展覧会で青山夢が注目したのはウルトラ怪獣についてである。日本の特撮シリーズの元祖であるウルトラシリーズには当初から軍拡競争やベトナム戦争、差別などの時事を反映した作品が多い。当時の日本では世界で起きている社会問題を、ウルトラ怪獣という形で、当時の大人が戦争の反省から番組をみる未来ある子供たちに伝えていたように思える。作家は「神話とウルトラ怪獣のつくりは、非常に似ている」と話す。どちらも時代を超えて人間の営みの中で起きた問題を象徴化し、目に見える形にして、人々に伝えている部分だという。彼女はこの形式をモチーフに、現代にはどんな怪獣がいるのだろうと考えた。最近の脅威としては、ウイルスや環境破壊から生じる自然災害があげられるが、一方では音速で飛ぶ武器やAI、SNSでの情報の氾濫など人為的な社会環境の変化も脅威として現れている。これらのような目にはとらえることが難しい災いが増えてきたように感じる。今回作家は、その見えづらい問題をモチーフに現代の怪獣を制作し、新たな物語を生み出していく。

《見えない怪獣》2024, ポリエステル生地、綿、アクリル、油彩  1650 x 2700 mm

時空を超えるキッチュの神話
青山夢の造形する弁証法的イメージについて

石倉敏明(人類学者・神話学者)


 青山夢はマンガやアニメーションといった現代のモチーフと、世界各地の伝説や民間伝承による超時代的モチーフを結び、時間と空間を超越したユニークなイメージの世界を織り上げてきた。その世界は深い夢のように酩酊的であり、鑑賞者の意識を作家個人の体験を超えた壮大なエネルギーに直面させる。

 青山はTVアニメ版「ポケットモンスター」が放映されたのと同じ頃、平成の日本に誕生した。マンガ・アニメ・ゲームといったメディアを通して彼女が吸収したキャラクター文化は、ツルツル・スベスベした奥行きのないフラットな世界を日本にもたらし、2次元的ないし2.5次元的と言われる精神環境を現代に創造した。彼女が好んできたというマンガやゲームのキャラクターたちは、まさに平面的で平滑的な神話の担い手として、日本の子どもたちを熱狂させてきたものだ。 

 しかし青山は、そのフラットな内在平面の向こうに、手塚治虫・つげ義春・諸星大二郎のマンガ、寺山修司の演劇、特撮によるウルトラマンシリーズの怪獣(「ウルトラ怪獣」)といった、もう一つの創造の系譜を発見する。フラットな表現の奥に蠢く、混沌としたエネルギーを造形すること。この関心は、彼女が「ムカサリ絵馬」という、独身の死者を冥界で結婚させようとする祈りのイメージへの関心に駆り立ててきた。山形盆地・村山地方の習俗であるムカサリ絵馬は、絵馬という小さな平面状に、生者のイメージと死者の魂を結び、現世と冥界をシームレスに繋げてしまう。同様に、青山はデジタルとアナログ、生と死、都市と地方といった対立する二つの次元を越境するための、パッチワーク状のブリコラージュを方法論として獲得する。そこに生まれるのは秩序と混沌を媒介する、新たな絵画表現である。

 制作においても、テンペラや金箔といった古典技法を駆使し、動物の毛皮やハギレを連結した独自の支持体を用いることにより、彼女は不定形でドロドロした情念、脈動する内臓的なリズム、陰影の効いた造形感覚を表現しようとしてきた。そこには、平成以後のツルツルしたフラット文化と、昭和以前の奥行きのあるアナログ文化を繋ぐ、弁証法的な創意がある。

 彼女はいま、その表現によって、高度成長期の日本の都市を破壊し続けてきた、あの怪獣たちを新たにリメイクしようとしている。その怪獣は、まるで液晶画面上のデジタル・イメージのように明滅する世界を食い破って、リアルな咆哮で私たちを覚醒させるだろう。かつて評論家の石子順造が「キッチュ」という言葉に託した、民衆文化と現代芸術を繋ぐ秘密の扉を、彼女は静かに開けようとしている。

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