展覧会Exhibition

石田恵嗣 個展「短編集 カエルの唄」
《カエルの唄》 2023 キャンバスに油彩 850x953mm

  • 石田恵嗣 個展「短編集 カエルの唄」

サムネイルをクリックすると、拡大表示します。

石田恵嗣 個展「短編集 カエルの唄」

2023年7月28日(金)- 8月20日(日)

アートフロントギャラリーでは2度目となる石田恵嗣の個展を開催いたします。海外の絵本挿画などから着想を得て物語性の強い作品を紡ぎだす石田は、今回も「絵本に出てくる一コマ一コマを眺める中で惹かれる人や状況を見つけたら想像のなかに潜りそれを拾い集め、一つの場面に集約」しながら作品をつくり、見る人の感情移入に委ねるといいます。前回から約2年ぶりの作家の新たな展開にご期待ください。
日程 2023年7月28日(金)- 8月20日(日)
営業時間 水~金 12:00-19:00 / 土日 11:00 - 17:00
休廊 月曜・火曜 夏季休廊(8月11日~15日)
オープニング&作家トーク 7月29日(土)14:00-16:00
作家在廊 7月28日(金)、29日(土)、30日(日)11:00-17:00
石田恵嗣は1975年千葉県生まれ。2006年より渡英、チェルシーカレッジオブアートを卒業後、RCAに進学し、2013年同校を卒業。西洋での長期の滞在をとおして、歴史や文化に触れ、オスカー・ムリーリョやダニエル・クリュー・チャブなどヨーロッパのスター候補の画家や、現在日本で頭角を現す現代美術作家の冨安由真らとの交流から多大な影響を受けました。その後2年にわたりドイツへ移住し、イギリスのギャラリーからアートフェアに出展されるなどヨーロッパを中心に活動してきました。アートフロントでは、2021年の個展以来2度目の展覧会となります。

石田の絵画の魅力は、エネルギー溢れる抽象画のような大胆な筆致と、絵本、図鑑、マンガといった既存のイラストレーションから抜き出されたキャラクター達が醸し出す、行く末がわからない物語性にあります。この絵を観る者は、謎を解くかのようにキャラクターのシチュエーションを追っていきます。異なる物語のイラストを組み合わせた事で新たに生まれた唐突なシチュエーションを前にして、その物語性を考えずにはいられませんが、その周囲に目を見張ると途端に流れるような筆致や、物の形を無視してつけられた色によって画面に放り出され、自らが知る既存のストーリーにはたどり着くことはありません。この不安定さが、再びキャラクターのイメージへと目を運ばせ、終わりのないストーリーへといざないます。

《Mole as painter》 2023 キャンバスに油彩  700x550mm

石田は展覧会に際して次のようにコメントを寄せています。

「ドローイングの工程で、私は違う物語の断片をシャッフルして嘘話を作ります。海外の古い絵本を多く参照するため国も時間もてんでバラバラです。私の場合自分が描きたいものが先にあるわけではなく、絵本に出てくる一コマ一コマを眺める中で、絵本ならではの惹かれるキャラクターやシチュエーションを見つけたら、そこから独自の想像の中に潜りそれを拾い集めて、ひとつの場面へと集約していきます。
わたしにとってペインティングは上記の工程で生まれたドローイングを、絵具を通して絵画に翻訳する作業だと考えています。其処には、身体的な動きや絵具が硬化するまでの時間など、元のドローイングにはない要素が加わるためその時々によって様々に変容していきます。新たに加わる要素である絵具による筆の跡と対峙しながらドローイングに奥行を与える行為を行うか、または元のドローイングから解放されようとします。今回もこの行為を通して生まれた画面に皆さんが対峙したときに、その体験が、まるで日常の出来事の様に、“眼前で起きている状態”として感じてもらえるような現在進行形のストーリーであればよいと考えています。」

このコメントにあるように、石田はこの展覧会に際して2023年に制作した新たな場面を約8点用意しました。気鋭の作家による渾身の作品をこの機会に是非ご高覧下さい。

《Oscillation》2023 キャンバスに油彩、オイルスティック 1600x 1200mm

イメージのモンタージュ 
クレリア・チェルニック[パリ国立高等美術学校教授(哲学)、美術批評家]

 石田恵嗣の絵画は一見、西洋の絵本、イソップ童話、アンデルセン物語の絵に似ている。しかしよく見るとマジックリアリズムを感じさせるような、日常生活と不思議な世界への入り口とが入り混じった奇妙な好奇心が読み取れる。そこにあるのは訓話や無駄話ではなく、沈黙した静かな不思議さであり、登場するキャラクターの思いがけない出会いの中で 意味と言語が浮遊するようだ。この世界と言説の宙づり状態は、「モンタージュ」との三重の関係性によって構築されている。 

 一つ目のモンタージュはコラージュの意味で捉えられる。石田は多様な素材―マンガ、子供向けの本、西洋の図鑑など―から引き出した要素を選び、それらを組み合わせて全体としては明白な、しかしどこか不安なイメージに構成しようとする。モンタージュの手法は、たとえそれが実験的であろうと映画上であろうと、各要素のぶつかり合いがある種のショックを起こすことを志向している。ヴァルター・ベンヤミンはエイゼンシュテインの《アトラクションのモンタージュ》の分析を発展させ、モンタージュの視覚的な衝突が、政治的な場面でも単に感情的でも観る者に何らかの反応を迫ることを強調した最初の理論家であった。確かにイメージのモンタージュは微妙な不協和音を生み出し、それは石田の作品から零れ落ちる一片の音楽のようだ。 

 2番目の意味はマヨネーズをつくる過程に例えられるだろう。実際、異質な要素をコラージュするだけでなく、それらが形を変えて混じり合い、複数のモノが別の一つに融合しなければ一体化したとはいえない。色目を抑えた石田の作品では、イメージの統一とバランスを計り、二つの可能性のどちらかという余地を残している。すなわち、黄色と緑の色調の狭間で、それが昼なのか夜なのか、夢の中の出来事か昨日あったことなのか、判断がつかない。そのような曖昧さは、卵の白身を泡立てると重力に反してふわっと立ち上がる様を想起させる。 

 最後のモンタージュは、まさにこうして我々に向けて立ち上がったイメージと我々の関係性にある。ここでは、モンタージュは「足場」のようなものとして、描かれた作品からイメージを取り出し、キャンバスと鑑賞者の中間的な空間に保持する。石田の作品は吊り橋のように、マンガの世界とヨウカイ(妖怪)の世界、昨日と今日の世界、巣穴から出てきたモグラの絵描きと我々の世界を―綱渡りのような優雅さで―繋いでいくのだ。 

トップに戻る