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大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2015 リポート No.7 - リュウ・ジャンフォア(刘建华)
作家名: リュウ・ジャンフォア(刘建华)/Liu Jianhua
作品タイトル:捨てられたもの Discard
作品番号: K089
場所: 川西 千手 
制作年: 2015

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大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2015 リポート No.7 - リュウ・ジャンフォア(刘建华)

今年の大地の芸術祭もいよいよ終盤に入りました。 まだこれから、という方も多いはず。 300を超える作品の中からギャラリースタッフの厳選したお薦め作品を新旧とりまぜて アートの視点から解説します。完成に至るまでのアーティストや製作スタッフの活動についてもご紹介します。
リュウ・ジャンファは1962年生まれ、現在は上海を基点に国際的に活躍する作家で磁器を使った現代アートをしています。中国の漢字を見ると刘建华となっていますが、日本や台湾では一般的に劉建華と表記した方が分かりやすいかもしれません。シドニー・ビエンナーレ、モスクワ・ビエンナーレを始め2003年にはベネチア・ビエンナーレの中国館にも出品。蔡國強やホァン・ヨンピン(黄永砅)、アイ・ウェイウェイ(艾未未)など国際的に活動する1950年代生まれの中国作家の次の世代の代表のひとりと言えます。

2014年の後半、作家の現場視察(大地の芸術祭HP、11月9日の記事より)

近年、大地の芸術祭は空き家や廃校を使ったプロジェクトが増え、そういった作品を期待されているお客さんも多いようです。もちろんそうした作品もよいのですが、せっかく「大地」の芸術祭という名前の付いたイベントです。自然を背景に写真映えするよい屋外作品がもう少し増えればいいなと思っていました。そんな中で今回の劉建華の設置場所となった場所は重要です。川西の千手神社の横手にかつて奉納相撲が行われていた場所。すり鉢状になった地面の真ん中に土の土俵の跡が四角く盛り上がっています。緑に囲まれた気持ちの良い場所で、歴史的にも特別な意味合いがあるという点で、私達もここに今夏の大地の芸術祭を代表するような作品を作ってくれる作家を探していました。

今回の作品は大きさとしてもインパクトが大きい印象的で、場所との兼ね合いで絶妙な意味を引き出すことにも成功している素晴らしい作品です。作家は景徳鎮で制作されまた数1000ピースもの白い磁器を持ち込んでいます。磁器の多くは私達の日常見かけるテレビ、瓶、おもちゃ、ドラム缶などの形をしていて、都市のごみを連想させます。

作品タイトルDiscardが示すように、壊れて破棄されたもので、もはや役に立たないものでしょう。なにより面白いのは真ん中にある「もともと土俵であった」起伏をうまく利用していることです。

しばらく見ていると、打ち捨てられたような磁器そのものが林立するビルの様に見え、この白い破棄された磁器が東京にも見えてきます。例えば東京であれば皇居とかニューヨークであればセントラルパークの様に都市にもこのように整備されたり囲い込まれた緑地帯があり、それが密集するビル群を際立たせて見せてみせるように、ここでは緑の土俵が作品のスカイラインを際立たせてくれています。

真ん中の土俵の部分に植えられているのは芝生でしょうか。明らかに作品周囲にある森とは違って、人工的に作り上げられた守られた都市の自然のようです。考えてみればこの土俵でさえ、使われなくなり、遺跡の様に次第に風化して存在が忘れれてゆく、捨てられてしまったものなのかもしれません。そんな場所にこの作品は人工的な自然を作り、都市で囲い込む。その作品の外側を本当の自然が取り囲んでいます。

この作品を訪れて作品と共に印象的だったのが、集落のお年寄りの存在でした。お客さんを呼び止めてお茶を出してくれたり、昔話をしてくれたりします。おそらく作品作りにも初めは半信半疑で、途中からはアートだか何だかわからないとしても面白がって付き合ってくれたのでしょう。こうして作品と人を繋いだ作家や関係者の力量も垣間見ることが出来ます。作家の視察の時の写真と完成した作品を比べるだけでも違いは一目瞭然。作品を置くための環境作りとか、真ん中の芝生もきっと彼らのなかの誰かが植えたり整備しているのでしょうか。

もちろん今現在の姿しか見ることの出来ない私達は作品搬入前と搬入後を見比べる必要はないのですが、作品を際立たせるための環境作りというのは場所に寄り添う作品にとって重要な要素であって、そこに人が関わっている。オープン前の手伝いについて楽しそうに話してくれるお年寄りの存在がとても印象的で、この芸術祭でなければ起こりえない奇跡のようなものを感じました。


(レポート 近藤俊郎, reported by Toshio Kondo, Art Front Gallery)

大地の芸術祭のパスポートは東京事務局、代官山のアートフロントギャラリーでも販売しております。ガイドブックと合わせ出発前に手に入れて事前に計画を練って行かれると効率よく廻れます。

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