プロジェクトProject
大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2015 リポート No.4 - カテジナ・シェダー
物を作るというアーティストの一般的な姿勢と異なり、彼女の作品は人々にインタビューをし、その生活の中から地域の問題点を探り、ゲームなどを通して人々と一緒に作品を作り上げる特徴があります。そんな若手の成長株のアーティストに外丸という集落に関わってもらいながら作品を成長させていってもらいたいとの思いで作家の視察を事前に行いました。
信濃川の対岸から外丸集落を見るカテジナ・シェダー
集落の人達と家を巡り歩いたり、床屋さんでそこを訪れてくるお客さんをつかまえて話しかけたりしながら、自分とは全く文化も習慣も異なる中での活動に戸惑いながらも、人々の日常生活をまず知ることを熱心なアーティストでした。高齢化など、自分の母国でも起きていることとこの地域の違いが何であるかを検討したり、2015年の春に再度来日をする予定で帰国後もテーマを検討することにかなりの時間を割きました。その後も日本語の出来るアシスタントを派遣して調べ残したことを調査したり、寸前まで様々なプランが送られてきたりして、今回はどれを実現するか非常に悩みました。
そうした中で今回実現したプランはまず越後妻有や地域の地形を作品に盛り込み、長いくねくねした道や川をテーブルで表現すること。次に、そのテーブルの一部に外丸を表現しそこに集落のそれぞれの家に作ってもらった写真アルバムを置くことで地域の日常と来訪者の出会いをテーブルの上で実現しようというものでした。設置場所は旧保育園で校庭にもテーブルが長く伸びてゆきます。
作家によるプランドローイング
校庭に伸びるテーブル
テーブルは建物の外から中へ、階段を上ったり、大きくうねって窓の外に出て行ったかと思うと別の階の窓から建物の中へと続いていきます。実際の長い道を走ってようやく集落を辿りつくように、来訪者は実際の道の様に長く続くテーブルを見ながら2階の最も大きな外丸という集落を表現した部屋に到ります。
信濃川へ突き出した外丸集落
大きな部屋のテーブルとアルバム
実際の地図を見ると信濃川は外丸集落のあるエリアで大きく蛇行しており、集落はその大きな蛇行へ突き出した場所にあります。川の流れ変化を利点として、このエリアは鮭が昔沢山遡上していた頃、漁業が大変盛んでした。旧保育園の展示室ではテーブルが信濃川の流れのように大きく蛇行しています。アーティストは会期前に集落の100を超える全ての家々にカメラなどを配り、自分の好きな集落の風景や季節の移り変わりを収めてほしいと依頼しました。一人住まいのお年寄りの家も多い中、アルバムを集落で協力しながら完成し、実際に100を超えるアルバムが並んでいますが、集落の団結力が垣間見られます。実際にアルバムを手にしてみると、人々の暮らしや地域への思いが伝わってきますし、それぞれが非常に面白く出来ています。
山道を思わせるテーブルが教室の中を走る
この他にもよくよく見ると曲がりくねったテーブルの上に保育園にあった自動車のおもちゃがひっそり隠されていたり、実際の集落の家々に様々な言葉で「ようこそ」と書かれている白い旗が立っていたり作品に関わるさまざまな発見がいっぱいの展示です。来訪者と集落の出会いこそが作品であるとの考えがこの展示の中核にあり、大地の芸術祭の最大の魅力を凝縮しようとした作品だと言えるでしょう。
(レポート 近藤俊郎, reported by Toshio Kondo, Art Front Gallery)