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南条嘉毅インタビュー:Roots of travel / 一雫の海(Daikanyama)
「一雫の時」2019

  • 南条嘉毅インタビュー:Roots of travel / 一雫の海(Daikanyama)

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南条嘉毅インタビュー:Roots of travel / 一雫の海(Daikanyama)

2019年5月10日(金) - 26日(日)

2年ぶりにアートフロントギャラリーで個展を開催中の南条嘉毅。今回の新作は、同時期に瀬戸内国際芸術祭2019で展示中のインスタレーション作品と連動しています。

前回までの「土」に代わって、瀬戸内地域の「塩」や「砂」を使って時間の集積を可視化するほか、別の部屋ではお伊勢参りを通して旅のルーツを探る作品を展開。

今回のインスタレーションがどのように生まれたのか、作家自身のことばで語っていただきました。

日程 2019年5月10日(金) - 26日(日)
会場 アートフロントギャラリー
瀬戸内国際芸術祭2019 春会期:4月26日(金)-5月26日(日) / 会場:香川県沙弥島
https://setouchi-artfest.jp/artworks-artists/artworks/shamijima/278.html

Room-A「Roots of travel」展示風景、2019、アートフロントギャラリー


ギャラリースタッフ(以下G):
今回の展示は、瀬戸内国際芸術祭に出品されている作品に連動したものと、もう一つは「旅」のルーツとは何かをテーマにした展示となっています。
どちらも塩や石英など新たな素材に挑戦されていますが何かきっかけはあったのでしょうか。


南条(以下N):
今回、アートフロントギャラリーでは3回目の個展を開催することになりました。現在、この個展と並行して、瀬戸内の芸術祭で作品を出しています。

今までずっと足元にある土を使った作品をつくっていましたが、今回の瀬戸内では水と塩の結晶を使って表現しました。

これまで僕はいろいろなところを旅して制作のきっかけをつかみ制作を行ってきました。今、僕は和歌山県の那智川中流にかかる滝「那智の滝」の隣の町に住んでいます。引っ越して3年ぐらい経ちますが、何か土以外のもので制作したいとずっと思っていましたが、なかなかきっかけがつかめずにいました。塩の結晶や岩塩、鉱物をみているうちに何か土とは違うもので制作ができないかと考えていたそのタイミングで、ちょうど娘が地域のことを学ぶ校外授業で、本人は「水晶!」といって、石英の結晶の塊を見せてくれたんです。これは面白いなと思って、役場に行ったり、周りの人に聞いて鉱山を採掘しに行きました。それで掘り出してきたものがこれらの石です。山奥の凝縮された時間のようなものが感じられるような気がして、そこの場所で育ってきた純粋な古石から制作が始まりました。

Room-A「Roots of travel」展示風景、2019、アートフロントギャラリー


N:描かれている対象としてはお伊勢参りの人々です。お伊勢参りも50年に一度はおかげ参りといって人口の一割ぐらいが仕事をほっぽらかしてお参りにいってもお咎めもなく、その帰りにはいろんなところに立ち寄りながら新しいファッションや音楽、お札など、そういうものを持って帰る、それが「おみやげ」のルーツといわれていて旅の形とおみやげが日本に広まっていったということです。

よく芸術祭などで人が10年20年住んでいない空き家にはいらせてもらうと、タンスや本棚が置いてあって、そこにおみやげものが埃をかぶって並んでいたりするんですよね。そういう状況、旅がそのままそこに定着して最後まで記憶として残っていく、そういうところに今回展示の方向を少し偏らせています。実は、搬入の初日に北新宿の空き家には入らせてもらって、そこからその机などを埃のかぶったまま頂いてきたんです(笑)。

石英を使うのは、時間をテーマにしているところがあります。瀬戸芸の作品は水滴が落ちていくのですが、水滴自体が時計の役割を果たしていた時代もあります。クオーツ時計の中にはいっている水晶振動針に電流を流すと1秒間に30000何回揺れるのです。それが一秒という単位になっていて長く日本で時間として使われている。つまり石自体が時間を意味しているという事でもあります。

Room-A「Roots of travel」展示風景、2019、アートフロントギャラリー


G:今回はお子さんの発見が地域の発見につながっていったわけですね。

今回のインスタレーションが日本の旅というものが形づくられるルーツを示しているかと思います。金色のこれらの作品は単品でも販売していますし、インスタレーションとしても販売しています。

ちなみに映像は三重県の観光局がつくったもので、60年ぐらい前の初代の観光映像作品として最優秀賞を受けたものです。お伊勢参りを通して三重の観光をPRする内容で、ギャラリーの外からもみえる形になっています。昼間は明るいのでうっすらとしか見えないのですが、もう少し暗くなってくると中の光や映像がオーパーラップして見えます。それも一つの要素としてスクリーンとしても発信できる形になっています。南条さんの作品では暗室が多いのですが、暗室をどのように外に見せていくかも今回の新しい試みの一つです。

Room-B 「sea drop(Daikanyama)」展示風景、2019、アートフロントギャラリー

G :既に瀬戸内でご覧になった方もいるかもしれませんが、南条さんは今回、香川県の沙弥島で展示をしています。こちらのRoom-Bでは、その要素を感じていただけるのではないかと思いますが、瀬戸内から離れたギャラリー空間でもその「場所性」を付加した作品になっています。

瀬戸内国際芸術祭2019「一雫の海」展示風景、香川県沙弥島


N:僕は香川県坂出市の生まれで瀬戸内海どこでもそうですが、かつてはとても塩田が盛んな土地でした。そのことは小学校のときから授業で習っていたのですが、近所にいっぱい空き地があるぐらいの認識で、いつも塩田で遊んでいた記憶があります。

いざ、香川で、その場所で何か制作をすることになったときに初めて土地について掘り下げて考えました。塩田の資料を集めているうちに今の街の風景の下に随分違う風景、時間が眠っているということにまず驚きました。そこから調べていくと今度は親戚や自分のひいおばあさんも塩田で働いていたことがわかり、自分の幼少期の記憶とおばあさんが塩田で働いている記憶が次第につながっていきました。

Room-B 「一雫の時」2019、アートフロントギャラリー


N:それから透明の記憶の蓄積みたいなもので時間が積み上げられていくものを形にできないかと考えました。まず、食塩をつらら状にして上からじわりじわりと溶け出していく様子。塩水や水が溶け出して、つくられていく時間をつららで表現しました。そして、その先に今一滴垂れそうなものを、この瞬間で固定してしまおうと試みています。それに対して下の映像は動き続けるようになっています。その時間をどのように重ねていくかという問題を提起しています。

「坂出市」2019、土、アクリル、墨、パネル、綿布 他


G:隣の商談室では2016年、17年の未発表作品と、瀬戸内にあわせて制作された平面作品を展示しています。

N:この「坂出市」は100年ぐらい前の坂出市の塩田の風景です。今はもうその上から土がかぶさっています。その上に塩の結晶を重ねて描いたものです。
塩田はほとんどなくなっていますが、ほんの1箇所だけ再処理処分場としてまだ残っているところがあり、そこの塩田の土です。

「沙弥島」2019、土、アクリル、墨、パネル、綿布 他


N: こちらは沙弥島とシンボルツリーの榎です。

「西寺」2017、土、アクリル、墨、パネル、綿布 他


N: この「西寺」は、京都に滞在していたとき、滞在場所のすぐ横に平安京の門の跡があり、調べてみると現在の地面の2メートル下に平安京があったことを知りました。距離的には2メートルだけれども、時間的には非常に長いことが感じられました。人がその場所で生活すると、土の積もるスピードがすごく加速していきます。平安京の時代から次第に土が重なっていったいという事。1万年で1メートルしか積もらない場所もある中で、それよりも短時間で土の時間と人の時間が重なり、土の様相が変わっていくことに興味を持ちました。

G:石英の作品は、商談室にも展示されています。描かれているモチーフが飛行機など、旅に関係した乗り物になっています。
南条さんの平面作品はキャンバスの形をしていても、土地の歴史を取材し、その土を画材として使うなど、絵画の中に場所性が付加されている点に注目して味わっていただければと思います。


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