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春原直人展によせて:日本画家 三瀬夏之介氏コメント
峨現嶺 / 2017 / 岩絵具、青墨、和紙、パネル / 270 x 900 x 6 cm

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春原直人展によせて:日本画家 三瀬夏之介氏コメント

春原直人のメンターであり、ご自身も気鋭の日本画家である三瀬夏之介先生が春原さんの作品の魅力について語ってくださいました。特に日本画制作の基軸となる「冩生」の精神と実践、部分と全体を往還する制作プロセスなど制作指導に関わってこられた先生の眼差しと、一人のアーティストとして作家を見ている視点をご紹介します。

Leap before you look 見る前に跳べ
東北芸術工科大学教授、日本画家 三瀬 夏之介

 東北芸術工科大学では雄大な山々に囲まれた環境の中で、対象を丁寧に見つめるための「冩生(しゃせい)」を軸に日本画制作を進めています。山形という土地は荒々しい自然と私たちを向き合わせ、他者と出会うことを強く求めさせます。そして多くの学生たちが様々なプロジェクトを通して地域へと深く入り込み、地域の方々は暖かく彼らを受け止めてくれる、ここはそのような場所です。

 「冩生(しゃせい)」をベースとし、自身を取り巻く環境をモチーフにした絵画制作を続ける春原直人の原体験は故郷である信州の山々にあるのでしょう。当たり前のものとして差し出されている時にはけっして気づけない、現在との時差によって手に入れたあの頃の心象風景と、山形の実景が複雑なレイヤー構造として絡まり合い、彼の息遣いと二重写しになることによって抽象度の高い「山そのもの」としての絵画が生み出されます。

 実際に装備を整えて多くの山に登り、その現場での冩生体験に裏付けされた山の絵は、具象的な色や形を超えた我々を取り巻く世界の存在そのものとなっています。
 登山における一歩一歩と重ねられる、絵画における一筆一筆のストロークは、彼が心血注いで取り組んでいた和太鼓での経験とも関係があるでしょう。
 点を打つこと、打たれることによる響きの余韻と、その静寂。
 毎日毎日繰り返される修練の連続性が「見る前に跳ぶ」、まるでアスリートのような行為としての筆致を実現させています。

 「一枚の葉が手に入れば、宇宙全体が手に入る」とは日本画家、安田靫彦が弟子の小倉遊亀へと送った言葉です。

 身体を通してミクロとマクロを往還する彼の「胸中山水」は、今日も呼吸のように生まれ続けています。


【三瀬夏之介】
1973年奈良生まれ。1999年京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻(日本画)修了。2012年第5回 東山魁夷記念日経日本画大賞展選考委員特別賞受賞。「日本画」を強く意識した作風で、錆を表現素材とした作品や、箔(金箔)を多用した風景の制作を経て、現在は墨を主に用いた表現に取り組んでいる。また2009年より「東北画は可能か?」というタイトルのもと、現在准教授をつとめる東北芸術工科大学にて、教育の一環あるいは日本画についての考察の一環として、東北における美術を考えるチュートリアル活動を行い、展覧会、レクチャー、ワークショップなどを行っている。主な展覧会は、2006年「MOTアニュアル 2006 No Border 「日本画」から/「日本画」へ」(東京都現代美術館/東京)、2009年「Kami. Silence – Action」(ドレスデン州立美術館/ドイツ)ほか。



写真:春原直人、取材風景

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