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【インタビュー】アルフレド&イザベル・アキリザン:Home / Return 2019_vol.2
"Habitat (Circle)" 2019

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【インタビュー】アルフレド&イザベル・アキリザン:Home / Return 2019_vol.2

アキリザンの作品の中心テーマが移住・移動・旅であることを前回見てきましたが、その過程で身のまわりの持ち物をどのように扱うか、持っていくものと置いていくものをどのように選別するかで自分の生き方が決まってくるといいます。

"Project Be-longing: In Transit" 2006 
アーティストと子供たちの身の回りの荷物、サイズ可変、シドニービエンナーレで展示


「この作品は、象徴的なダンボールの箱から成っていて、フィリピンからオーストラリアに移住するときのプロジェクト。こどもたちに対して、持っていきたいものを選ばせた。私たちがオーストラリアへ持っていったのは12個の箱でした。2006年、シドニービエンナーレではもっていったものすべてを詰めたその12個の箱をプロジェクトの一部として展示しました。一方でフィリピンに残したものを箱に詰めてフィリピンのカルチュラルセンターで同時に展示しました」

これらの立方体はフィリピンでよく物流に使われるバリクバヤンボックスを模している。帰省のときにも使われるこの箱は、フィリピン人が離散しなければならないときに家族や祖国との絆を確かめるために使われている。バリクバヤンは洋服や台所用品などの日用品、缶詰などが他国への移住者からフィリピンに送られるが、それほど大きくはないので機内持ち込みや郵送も可能である。2006年シドニービエンナーレで注目をあびたのがきっかけだが、プロジェクトビロンギングは個人の持ち物、洋服や本、オモチャといった持ち物からできあがっている。それをアキリザンたちが立方体状にアレンジしたものだ。

"Dream Blanket Project" 土市集落から集めた毛布 / 越後妻有トリエンナーレ2006

この年、第3回越後妻有トリエンナーレに招待されたアキリザンは、十日町の集落を廻り、家を訪問して人びとと話をした。雪や農作業、日々の生活、地域の社会問題、都会で暮らすこどもへの想い。「圧倒されながら人びとの夢を聞いた。語られる記憶の意味を超えて人の姿を垣間見ることができた」と作家は語る。

"Florets#1-12" 2017
赤ちゃん用のニットのセーター

確かに妻有の人々が離れて暮らすこどもに寄せる想いは、国境を超えて共有されるべきものだったかもしれない。事実、アルフレドは自身が留学して海外にいるときに、家族を思って「小さな花」シリーズという作品をつくったことがある。小さな花の意であるfloret は赤ちゃん用のニットセーターを折りたたんで女性の性器をかたどった作品である。これらのデリケートな作品はアルフレドが海外にいて妻や5人のこどもたち、特に生まれたばかりの娘を恋しがって制作したもの。実際には会えない家族との距離を、古着屋で30日間赤ちゃん用のセーターを買い続けることで魔法のように縮めてみせた。

"Left Wing Project (Belok Kiri Jalan Terus)" 2017-2018
サウンドインスタレーションを伴った7点の彫刻、鎌、重量計、麻の袋、米、ロープ、ケーブル、モーター、スピーカー / サイズ可変 / アートバーゼル香港に出品


アキリザンは自分の家族だけでなく、もっと広く社会全体が抱える問題に眼を向けてきた。

レフトウィングプロジェクトではアーティストはアジアの農村が直面する政治的社会的な戦いについて検証している。ジャカルタで集められた手作りの鎌が翼の左側に並べられている。経済的なグローバリズムの波によって職をはく奪された鍛冶屋の物語がその背後に見え隠れする。

"Wings III" 2009
中古のサンダル 270x200cm / 第56回ベニス・ビエンナーレ出品

2009年の翼のシリーズではゴムサンダルをシンガポールの更生施設から集めてきて、人体と同じぐらいのスケールの天使の羽をつくった。壁の向こう側の施設ではどのようなものも中にいる人々を解放することはできないというメタファーを付与している。この作品は明るくシンブルで、投獄されている人こそどのコミュニティにおいても無一文であることを物語り、かつ翼が若干のアイロニーを感じさせる。

"In God We Trust" 2009
ステンレススチール、ゴム、ビニール、ガラス、板、ジープの部品 / クイーンズランド美術館にて展示 / ブリスベーン、オーストラリア

アキリザンが国際舞台で最初に注目を集めたのは2003年のベニス・ビエンナーレだ。彼等はジープのような仕様の車を展示したのだが、これは当時のフィリピン文化を象徴するかのように、アメリカを中心とした様々な国の車の中古部品から成り立っていた。彼等自身のアイデンティティも複数のルーツをもつことを示していたようだ。ジープのシリーズは、細やかな金工、タトゥーといった伝統文化と古い軍用車両をミックスしたものだ。観客の注意をひくために派手でエネルギッシュなデザインをまとう一方で、戦後アメリカがいかに強く現地フィリピンの文化に影響を及ぼしたか、そしてフィリピン人がいかに巧みに外来の事物を取り込んで我流にアレンジしていったかが容易にみてとれる。

以上みてきたように、「寄せ集め」て創られるイメージは、世代を越えて受け継がれている。
今回の展覧会は彼らの息子、ミゲル・アキリザンの展示「Lost and Found」と同時開催である。ミゲルもまた、アッサンブラージ、コラージュの手法をアルフレド&イザベルから学んだ後、自分のやり方でそれをアレンジしている。ぜひ会場にて両者を見比べながら、その魅力を味わっていただきたいと思います。

アルフレド&イザベル・アキリザン:Home / Return 2019
2019年6月19日(水) - 8 月 4 日(日)

ミゲル・アキリザン : Lost and Found
2019年6月19日(水) - 8 月 4 日(日)

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