プロジェクトProject
Gallery's Picks for the Month (10月)
奥能登国際芸術祭
[今月のピックアップ作品]
先月に引き続き、石川県珠洲市にて11月5日まで開催中の奥能登国際芸術祭2020+に参加している作家からギャラリー一押しの4名の作品を紹介します。芸術祭での作品解説も対にしてお届けします。コレクション作品と空間的な作品の違いもお楽しみ下さい。
作品のお問い合わせはcontact@artfrontgallery.com もしくは03-3476-4868(担当:庄司・坪井)まで。
河口 龍夫
河口龍夫は、1940年兵庫県神戸市に生まれ、62年に多摩美術大学絵画科を卒業後、65年に神戸在住の若手作家とグループ<位>を結成し脚光を浴びて以降、89年の「大地の魔術師たち」(ポンピドゥー・センター、パリ)に参加するなど、日本を代表する現代美術アーティストとして活躍し続けています。河口は自らの制作のテーマに「関係」というキーワードを据え、物質と人間や時間との関係を表現する作品を制作しています。制作活動の一方で、河口には今年の3月に退官するまで長きにわたり数々の大学で教鞭を執ってきた、教育者としての側面もあります。
奥能登国際芸術祭2020+では、2017年に制作された恒久作品《小さい忘れもの美術館》が再びお目見えします。2005年の能登線の廃止に伴い廃駅となった旧飯田駅を丸ごと利用した本作品において、河口は忘れられることの意味を問い、駅全体を「忘れもの」で満たしました。小さな駅構内に入ると、壁一面にカバンや杖などの「忘れもの」の影が黄色のスプレーで象られています。駅員室は黄色一色の室内に黄色く着色された先ほどの忘れ物が壁一面にかかっています。ホームには忘れものの傘が草花のように群立し、ホームに佇む貨物車の車内は一面黒板になっており、鑑賞者はそこに「未来に残したい言葉」を書くようになっています。
磯辺 行久
磯辺行久は1935年東京生まれ、1950年代から版画を制作し、60年代にはいるとワッペン型を反復したレリーフを制作し一躍注目を集めます。65年ニューヨークに渡った磯辺は、当時のアメリカで巻き起こった環境との共生を目指すムーブメントに関わったことを機に、自然環境と共生していくための環境計画「エコロジカル・プランニング」への活動へとシフトしていきます。大地の芸術祭とでは開催前の地域調査に始まり、2000年以来信濃川や土石流の変遷を浮き彫りにする大規模な作品を次々と生み出しております。
奥能登国際芸術祭2020+への参加にあたり、磯辺は珠洲を特徴づける自然的条件として、大陸から吹く偏西風と沖合でぶつかる寒流と暖流に注目しました。そこで磯辺は風と海流、ふたつの特徴を体感するために行われたワークショップを実施、その記録展示とともに珠洲という大地が歩んできた物語を具象化するプロジェクト《偏西風》《対馬海流・リマン海流》を制作しました。珠洲市内の小中学生を対象に開催された「偏西風検証ワークショップ~実証実験~」では、市内の各学校からメッセージを書いたはがきを添えた約千個の風船を一斉に放ち、上空の風に乗せて飛ばしました。風船の落下範囲等の記録や風船の拾得者とのメッセージのやり取りが会期中に作品として発表されます。
カールステン・ニコライ
旧東ドイツのカールマルクスシュタットに生まれたカールステン・ニコライは、90年代にベルリンを拠点に美術家としてのキャリアをスタートさせて以降、97年にはカッセルのドクメンタXに出展します。その後も欧米各地で展覧会を開く一方、アルヴァ・ノトの名前で電子音楽でも知られるようになり、ファクシミリ音やクリック音にまで音楽の領域を広げるなど視覚アートと音楽の世界を自由に行き来しながら活動の場を広げてきました。
カールステンが珠洲で展開するのは、2017年3月に閉所となった旧粟津保育所に展開されるインスタレーション作品《Autonomo》。会場の遊戯室には大きな金属の円盤がいくつか吊られ、テニスボール送球機が置かれます。飛ばされたボールが円盤や壁に跳ね返る音でランダムに発現する音や振動を知覚するインスタレーションになります。閉鎖したばかりの保育所へのオマージュとして、「遊び心」や「おもちゃ」、「子どもらしさ」をキーワードとする作品を展開します。
中谷 ミチコ
中谷ミチコは1981年東京生まれ。ドイツのドレスデン造形芸術大学修了後、現在三重県にアトリエを構え制作活動を行っています。2020年には東京メトロ銀座線虎ノ門駅に幅9mのパブリック彫刻「白い虎が見ている」を設置し、中谷独自の技法による立体表現と、その迫力が大きな話題となりました。また今年7月には、新潟県・越後妻有里山現代美術館 MonETのリニューアルオープンに際して、レリーフ作品《遠方の声》を発表。複数点新設されたコレクション作品の中でも高い人気の作品となっています。8月のアートフロントギャラリーでのドローイング展も好評を博し、今もっとも注目度の高いアーティストの一人と言えるでしょう。
中谷は今回珠洲でインスタレーション作品《すくう、すくう、すくう》を発表しています。市街地の交通会社待合所の2階にしきつめられた小さなオブジェ。作家独自の手法で、水をすくう人の手がつくられました。手のモデルとなったのは、作品周辺の飯田の街で暮らす人びとです。ひとつひとつ異なる手のかたち、指の重ね方。あらゆる人が毎日無意識に繰り返す「すくう」ことの意味を、反転され不在と化したかたちから再考しています。
奥能登国際芸術祭2020+は、会期が延長され、2021年11月5日(金) まで開催中です!
「さいはて」とも称される日本海に突き出る能登半島の最先端、石川県珠洲市にて、「最涯の芸術祭」「美術の最先端」をお楽しみください。