プロジェクトProject

大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2015 リポート No.2 - マーリア・ヴィルッカラ
作家名: マーリア・ヴィルッカラ Maaria Wirrkala
作品タイトル:ファウンド・ア・メンタル・コネクション3 全ての場所が世界の真ん中
Found a Mental Connection 3: Every Place is the Heart of the World
作品番号: D102
場所: 松代エリア蓬平
制作年: 2003

  • 大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2015 リポート No.2 - マーリア・ヴィルッカラ

サムネイルをクリックすると、拡大表示します。

大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2015 リポート No.2 - マーリア・ヴィルッカラ

大地の芸術祭 越後妻有トリエンナーレ

今年の大地の芸術祭もいよいよ終盤に入りました。まだこれから、という方も多いはず。300を超える作品の中からギャラリースタッフの厳選したお薦め作品を新旧とりまぜてアートの視点から解説します。完成に至るまでのアーティストや製作スタッフの活動についてもご紹介します。

マーリア・ヴィルッカラは1954年生まれのフィンランドのアーティスト。北欧を代表する食器デザインメーカー、現在のイッタラ社のガラスの器のデザインなどでも知られるタピオ・ヴィルッカラが父にあたる。父親のデザインにも共通する繊細さながらも詩的な情緒を併せ持つ作品で知られ、私達の日本人の感性にも分かりやすい作品を作っている。自然と人間の関係性における考え方など、ムーミンの著者トーベ・ヤンソンの思想を受け継ぎながら、大きな自然と闘いながらもそれと共存してきた伝統や、人々の暮らしの中で息づいてきた記憶や伝説を受け入れる作法を製作の基盤として作品化しているように感じられる。

私達とアーティストとの出会いは第2回目の芸術祭へ向かっている頃でした。その頃にも空き家は今と変わらずいっぱいあったはずですが、今と違ってまだまだ大地の芸術祭自体の認知度も低く、持ち主や集落の合意を得ることが当時は殆ど無理に等しい状態でした。空き家を使ったプロジェクトは2000年のマリーナ・アブラモヴィッチの「夢の家」くらいしかなく、2000年の芸術祭は人のあまりいない場所に置かれた彫刻然とした作品が中心でした。

そんな中で2003に向けて手を上げてアートを受け入れてくれたのが蓬平の集落でした。蓬平は山に囲まれた集落ですり鉢状の地形の底にあるような村で、当時はまだ当然のことでしたが携帯の電波も繋がらない場所で、カーナビもない時代でしたので地図の中では等高線の密集した不思議な地形にある場所に思えました。作家はここにそれまでの越後妻有の屋外彫刻とは全く異なる視点で、当たり前にある農家の傘を金色に塗ってパラボラアンテナの様に全ての家に取り付け、夜になったら灯してほしいというプランを出したのです。当時は地元にあるありふれたものを一つだけ選んで本来の用途とは全く違う方法で際立った大きなアートに見せるという点で画期的でした。また、孤立しているような集落があたかも世界に向けて通信しているかのような、目に見える作品としての形だけでなく、集落全体の空気感を作品に取り込んでいる点が驚きで「全ての場所が世界の真ん中」というタイトルの感覚も秀逸でした。

夜しか作品としての総体が見られないかもしれませんが、すり鉢状に展開している全ての家や倉庫に灯りが灯るこの作品は「隠れた名作」と言われ続けています。2003年以来10年以上、今でも夜になると集落が灯りを灯し継続をしてくれています。今でこそ古巻さんや大巻さんの作品も同じ蓬集落にありますし、あるいは現在では集落に作品があること自体が当たり前にさえ思われるようになっています。しかし集落に入り、人々と共にアートを作ったこの作品が間違えなくその先鞭をつけた作品と言えるはずです。ホタルを見に行くときに感じるあの雰囲気です。その情緒の先には空気とそこに住む人々の気配を感じさせます。ぜひ夜の蓬平も訪れてみてください。

作家名: マーリア・ヴィルッカラ Maaria Wirrkala
作品タイトル:ブランコの家 House of Swings
作品番号: D266
場所: 松代エリア桐山
制作年: 2006-2012

大地の芸術祭がさらに奥にある小さな集落に入って、空き家を借りることが可能になっていったのが2006年の芸術祭以降になります。2006年に向けて、蓬平と同じ街道筋にある桐山集落で手を上げてくれた家の一部をお借りして始まったのが「ブランコの家」でした。初めて作家がこの家を訪問した際に、そこにかつて住んでいた姉妹が遠くの町から来てくれて子供の頃の思い出を語ってくれましたが、その中に、ブランコの話がありました。長い雪の季節、子供達は外に出て遊ぶことが出来ず、家の中に縄を張ってもらって、そこに板を置いたブランコで遊んだというのです。今では誰も住まなくなったこの家にそうした思い出だけが生きているさまを表現したのが2006年の「ブランコの家」という作品でした。

2012年の2階の様子

その後、家が2007年の中越沖地震で壁が一部崩落したため2009年は壁に出来たひびを見せながらも手を加え、リニューアルバージョンとして公開しました。その後、大家さんの計らいで家の一部改修工事があって、作家がまた継続的に手を加えていきました。家に留まっている幾世代の思い出が家の各所で動き続けるインスタレーションが加えることで2012年に今の作品が完成しています。少しづつ作品が作家の手によって長期的に変化してきたという点でも大地の芸術祭の目指す地域との関わりの見本のひとつであり、孤高の存在となっています。

2012年に追加されたインスタレーション

現在奥のブランコで揺れ動くガラスの器は作家の父であるタピオ・ヴィルッカラのデザインのものが中心となっています。集落やこの家だけではなく、作家自身が第二の故郷としてこの家を語るほど作家自身がもつ「家」との記憶をダブらせながら静かに息づいている雰囲気がこの作品にはあります。見えないものの気配をも作品に取り込んでいるという点で、美術館ではあり得ないまさに環境に即した展示です。

(レポート 近藤俊郎, reported by Toshio Kondo, Art Front Gallery)

トップに戻る