展覧会Exhibition

鴻崎正武:MUGEN
"Tree of world -dialogue- " 2020 / 600 x 1200 mm / 麻紙、箔、岩絵具、アクリル、パネル

  • 鴻崎正武:MUGEN

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鴻崎正武:MUGEN

2020年10月23日(金) – 11月22日(日)

この度アートフロントギャラリーでは、鴻崎正武の個展を開催致します。
日程 2020年10月23日(金) – 11月22日(日)
営業時間 水~金 12:00-19:00 / 土日11:00 - 17:00 ※短縮営業

鴻崎正武は1972年生まれ。東京藝大大学院在籍中に青木繁記念大賞を受賞するなど、未来予想図的な《TOUGEN》シリーズで注目を浴びた。多視点から成る平面上に盛り上げた金銀箔の雲を散らし、雲間に点在するキメラ風の動植物や未来の乗り物、黙示録に出てくるような異界の生物や事物が画面を埋め尽くすという作風はその後も変わらない。アートフロントでは大阪のホテルにその地のランドマークを組みこんだ作品を依頼したのがきっかけで2010年の4人展《逸展》に出品、その後代官山T-SITEのanjin caféの常設の壁画を手掛けた。2012年の個展以後、洛中洛外図を想起させる絢爛なスタイルが海外コレクターの心をつかみ、NY, ロンドン、シンガポール、香港など鴻崎ファンは海外にも多い。

前回の個展では描かれるモチーフが生まれ故郷の福島県双葉町を擁する東北へと向けられた。秘境羽黒山を中心に据えた大画面、双葉十一面観音坐像、小沢仏、慈恩寺大日如来などの仏像たち。或いは東北みやげとして認知されているこけしやだるまが空中を飛んでいる図柄が描かれる。福島第一原発の事故によって同郷の人々にとって全く変わってしまった「ふるさと」への想いを代弁するかのように、地元人にしか描けないモチーフを描き連ね、ローカルなものの確かさ強さを浮き彫りにして見せた。
今回の新作展に向け、鴻崎は「ポストアポカリプスな状況だからこそ、あえてユートピアと向き合うべきではないか」と自問する。例えば、俯瞰的な構図の中に都市の繁栄を象徴するサグラダファミリア、ピサの斜塔、エッフェル塔などが垣間見える作品だ。金雲を貫くタワー群は人間の欲望の表れでもあり、それぞれのシンボルは等価に扱われる。見る者は世界中の都市が同時多発的に見えない敵との闘いを余儀なくされるという、中世のペスト流行以来の状況に今、直面していることを思い出さずにはいられないだろう。国境や文化の違いを超えたパンデミックという事態は、鴻崎のいう「自然の掟に従うのではなく、自然を支配したいという人間の欲望から生み出された」ものかもしれず、結果、自然界から受ける倍返しを人間のさがとして受け止めざるを得ない。それでもなお、その先に希望があるとすれば、それはやはり人間の生み出す何かではないだろうか。

「人間が幸せに向かってもがいている実感は、誇張された未来でしか描けない」とする鴻崎の一貫した姿勢は、
今回の個展でどのように発露されるのだろうか。屏風や円形・楕円形の新たなフォーマットの中での展開をどうぞご高覧いただきたいと願う。

"ハネタヌキダコ" 2020 / φ250 mm / 麻紙、箔、岩絵具、アクリル、パネル


鴻崎正武個展によせて
森美術館アソシエイト・キュレーター、德山拓一

 2017年1月、ヒトと豚のキメラ (i)が誕生した。ライフサイエンス分野の世界的権威である学術雑誌「セル(Cell)」に、アメリカのソーク研究所でヒトと豚の混合種の胚の作製に成功したという研究結果が発表されたのだ。2019年には中国では猿の遺伝子をもつ豚が誕生している。(ii) こうした研究の目的は、ヒトに近い動物を作りだし、その体内で臓器移植用の人間の臓器を培養するためである。嘗て、神話で恐れられていた怪物のキメラは、近い未来には臓器培養器として私たちに仕えるようになるのかもしれない。

 1999年頃にはじまった鴻崎正武の代表的なシリーズである「TOUGEN」にも無数のキメラが描かれており、作品の重要な要素として捉えることができる。南蛮屏風や洛中洛外図を連想させる様式を土台として、頭部が鳥の裸婦をはじめ、人工衛星や伝統民芸品などの人工物と動物や昆虫、花などの動植物が混合したキメラなど、そのバリエーションは膨大だ。そんな鴻崎のキメラと冒頭のラボ由来のキメラが、どこか重なっているように思えてならない。

 鴻崎が制作のために参照するのは、オランダの画家ヒエロニムス・ボッシュ(1450~1516)、百鬼夜行図(1336~1573)、洛中洛外図屏風(16世紀~)、南蛮図屏風(16世紀末~17世紀)などである。そこには、産業革命以前の世界で人間の欲望と想像力が生み出した、迷信やモノノケ、豊かな風俗や文化が描かれている。鴻崎の絵画世界で、それらと異質に共存するのが、人工衛星やロケットなど、科学技術によって生み出された機器や工業製品である。この興味深い共存、または混合によるキメラが浮き彫りにするのは何なのだろうか。

 近世から変わることなく存在する人間の欲望や豊かさへの願望は、産業革命以降、科学技術によってあらゆる形で具現化されてきた。時代によって異なる姿で現前してきた「人の性」の合成が、鴻崎のキメラが意味するものではないだろうか。研究室で作製されたキメラも、不死への願望が、生きた臓器培養器というグロテスクな形で表出したものである。鴻崎の描くキメラとラボ由来のキメラの近似性はそこにあるのだ。

 福島出身の鴻崎は、原子力をはじめとする科学技術によって人間の欲望が満たされた時、奇妙な「TOUGEN」が到来するであろうことを肌で感じていたのかもしれない。既にヒトと豚のキメラを生んでしまった私たちの世界は「TOUGEN」に近づきつつあるのか。コロナ禍に改めて見直した時、鴻崎の作品は新たなリアリティをもって迫ってくるようである。

(i)ギリシャ神話に登場するライオンの頭と山羊の胴体、毒蛇の尻尾を持つ怪物であるキマイラが語源となり、生物学では同一の個体内に異なる遺伝情報を持つ細胞が混じっている状態や、そのような個体のことをキメラと呼ぶ。また、近年、映画やアニメ、ゲームなどのポップカルチャーでも複数の生物が合成されたものがキメラと呼ばれることある。

(ii) 参考: Jun Wu. “Interspecies Chimerism with Mammalian Pluripotent Stem Cells,” CELL, JANUARY 26, 2017. VOLUME 168, ISSUE 3, P473-486.E15, 2019年12月に中国・北京の国家重点実験室で猿の遺伝子を持つ子豚が誕生したことも報じられている。
(参考:https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/12/post-13608.php)










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