展覧会Exhibition

久野彩子 個展 : line
"JP392" 202, 7.6×11.25×2cm, アルミ青銅

  • 久野彩子 個展 : line

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久野彩子 個展 : line

2020年2月7日(金) – 2月24日(月祝)

この度アートフロントギャラリーでは、久野彩子の個展を開催致します。
日程 2020年2月7日(金) – 2月24日(月祝)
営業時間 11:00 - 19:00 (月、火休)
レセプション 2月7日(金) 18:00~20:00
久野彩子は1983年東京生まれ。2008年に武蔵野美術大学工芸工業デザイン科金工専攻を卒業後、2010年に東京藝術大学大学院にて修士を修め現在まで作家活動を継続している。

主にロストワックス鋳造という技法を使い細密鋳造によるパーツを寄せ集めるように作品を制作。その作品は小さいが重厚であり、空想上の都市の風景を想起させる。初期の作品群は、想像上の未来空間を思わせるような塊が崩壊するイメージを得意としていたが、近年は、現実の世界をよくリサーチし、道路や路線図、水路など、地図上の形をベースにするなど本物の都市の要素を取り入れ始めている。同時に時事的要素も考慮し、より一層現実の世界にかかわりを持つことで単なる工芸技術の集積に陥ることなく、現代に生きる作家としてモノづくりに取り組んでいる。

2月に行われる本展覧会では、このモノづくりに新たに2つの方向性をもって挑戦する。一つは創造する形、空間への意味付けであり、もう一方はそのサイズ感に対するものである。

今回は、久野の作品の中でも人気のあるスターウォーズのデススターのような空想上の重厚な空間ではなく、都市の日常風景から見えない線を表現する。これらの線は日常における生活の中では我々が体感的には気が付くことのできないものたちを中心としており、その都市の地図をベースに細密鋳造の金属の線で表現される予定だ。目には見えないが実在するものを地図上に表すとき我々はどんな空間をそこに見、想像することができるのだろうか?新たな方法論で導き出される金属の細かい集積は、その空間的な様相の美しさはそのままに、背景に都市の在り方や構築論を背負うに違いない。これまで久野は一部作品を除いてはすべて手のひらに乗るサイズの世界の中でいかに細かく空間を構築するかに心血を注いできた。しかし近年隆盛するサイトスペシフィックな空間を主体とするような表現に対しては、その作品のサイズ感から避けてきたようにも見える。今回久野はこの問題に対しても一つの答えを出そうとしている。現実のモノの上に空想の都市を構築する新たな試みは、これまでのように私たち鑑賞者を作家にしか見えなかったファンタジーの中へと導いていく。一方現実のモノとして存在する廃材や古道具を依り代としてそれに寄生するかのように増殖する金属の塊は、ミクロとマクロの両方で見ごたえのある形と空間を生み出すだろう。

"US840" 2020, 7.6×14.2×2cm, アルミ青銅


久野彩子展によせて
金沢21世紀美術館 キュレーター 立松由美子


 久野彩子が駆使する鋳金技法は、日本の伝統技術である。長く師について技術を習得しなければならない仕事は、現代の日本では失われつつあるが、他方で、土地に根付いた文化を知る手がかりとなることから見直しもされている。久野が使うロスト・ワックスの手法は、ロウの原型を金属に置き換えるために間違いのない慎重な作業が求められる仕事だ。手間を厭わない職人気質は、礼儀作法、品位とともに日本の伝統工芸では死活的に重要な資質である。久野の仕事は、先人の知見を「もともとそこにあったもの」のようにやすやすと扱っているようにみえる。工芸領域が醸し出す神話の空気を纏いながら、新しい可能性を開くポテンシャルを持った独自の制作方法といえるだろう。 

 東京で生まれ育った久野にとって、都市の風景が上書きされることは日常的にありふれたことであった。雑然とした街の空気感に惹かれた久野の関心は、やがて地図上の境界線に向けられた。久野は、グーグル・アースによって俯瞰して見ることができる地球上の都市に着目した。鉄道や高速道路、高層ビルなどの人造物の輪郭を、精密な鋳造技法で造られた金属の線として掴み取る。それらのパーツを組み合わせながらヒューマンスケールを超える世界を表現する。一望高みから現実を表した久野の作品からは、日々の生活の中では見えない心象風景が感じられる。目の前のものに気をとられると本質を見失ってしまう。景観の変化に対して必ずしも悲観する必要はなく、それに反して、人の営みによって世界はどんどん良くなっていくという久野の意志の表れが作品から感じられる。

 人間社会における複雑に絡み合う物事や世の中に氾濫する情報、そして、人々が繰り返してきた建造と破壊、再構築といった行為について、久野は未来へ続く生命エネルギーとして捉えている。ボーダーラインが交錯する世界をシンプルなパターンで直感的に組みあわせていく仕事は、眼前に展開するランダムな現象の背後に美的な秩序が存在するという法則性の証のようだ。人が行き交う軌跡は重なり、複雑な風景のポートレイトを造りだす。線の軌跡は菌糸のように増殖し、連続性のある時間と生命力のプロセスとして現代の光景が表現されている。

 しかし、仮に観る者が生命活動の軌跡を廃墟のように感じるとしたら、現実社会における絶え間ない戦争や課題の果てにある無慈悲で非人情的な都市の姿を見るからなのかもしれない。


"demolition" 2019, 22×22×48cm, 真鍮・アルミ青銅

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